彼女たちがなぜ来るのかといえば、もちろん最初から買う気などあるわけもなく、ただ冷やかしに来るだけなのだ。それでも、黙って見て帰るならどうということはないが、われわれ営業をつかまえては、「この家は外国製のシステムキッチンだけどあとから買い替えたのかしら」とか、「うちより間取りがよくできてるわねえ」などと愚痴せりふとも嫌味ともとれる台詞を吐く。「このくそババァ」と思っても、顔ではニコニコしていなければならない。特に、建て売りで同じ地域の同じような価格で買った人たちは、他人の家のことがどうも気になるらしい。たちオープンルームを一日やると、そういう質の悪い冷やかし客しか来ないこともあり、そういう日はやけ酒でもあおらないとやってられない、ということもあるのだ不動産屋の商売は、土地家屋の売買、土地家屋の売買の仲介、借家の仲介が主な業務だ。そのなかで、借家の仲介や管理が日銭を稼ぐかっこうの商売であることは以前から変わっていない。都心では、賃貸の仲介だけで商売している業者も非常に多い。わたしが現在勤めている不動産屋でも、賃貸物件を仲介することによって得られる収入が大きな比重になっている。さて、ここでは借り主と大家の関係に変化が表れてきた、という話をしよう。東京への一極集中になってしまった日本社会にあって、賃貸住宅の需要は相変わらず強い。だが、ここへきて不況と供給過多によって賃貸のアパートやマンションがかなり余ってきている。
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